歴史小説「塞王(さいおう)の楯(たて)」(集英社)で1月に直木賞を受賞した作家の今村翔吾さん(37)=大津市=が30日、47都道府県の書店などを巡るお礼行脚に出発した。小説を執筆できるように改造したワゴン車で、119日かけてめぐる。今村さんを全国行脚へと突き動かした思いとは――。
今村翔吾さん略歴
1984年、京都府生まれ。現在は大津市在住。ダンス講師を経て2017年、「火喰鳥(ひくいどり) 羽州ぼろ鳶(とび)組」でデビュー。「童の神」(ハルキ文庫)、「じんかん」(講談社)で直木賞候補に。今年1月、「塞王(さいおう)の楯(たて)」(集英社)で第166回直木賞に決まった。21年11月から大阪府箕面市の書店「きのしたブックセンター」のオーナー。
「今村翔吾のまつり旅」と名づけた旅の出発地は、かつて勤務していた滋賀県守山市の埋蔵文化財センター。小説の執筆活動を始めた作家の原点ともいえる場所だ。
30日、同センターで講演会を開いた。センターで2015年から約2年半働いた今村さんは「ここでの時間が無ければ今のような作品は書けなかった。歴史小説の勉強になっただけではなく、本当に大切なことを学ばせていただいた」と話した。
岩崎茂所長(66)によると、直木賞受賞前に今村さんから講演会の打診があったが、「直木賞作家になってから来てほしい」と断ったという。受賞後の4月に再び今村さんから「旅のスタート地点にしていいですか?」と連絡があったという。岩崎所長は「彼なら必ず取ってくれると思っていたが、律義にスタート地点に選んでくれたことがうれしい」と話した。
出発式では、宮本和宏市長らが激励に駆けつけた。ファンやかつての同僚ら約90人に見送られながら、今村さんはワゴン車に乗り込んで出発した。
最初に訪れた、同市古高町の「本のがんこ堂」守山店では、サイン会を開催。35年前に県内で本屋を創業したがんこ堂社長の田中武さん(68)は「これまで直木賞作家が来たことはない。まちの本屋にとって活性化、売り上げにもつながりありがたい」と話した。
今村さんは直木賞が決まった1月の記者会見で「今年中に47都道府県の書店にお礼に回りたい」と宣言した。コロナ禍前は年間100件ほど書店回りをしていた。ただ、振り返ってみると、主に訪れていたのは、出版社に段取りをしてもらった東京や大阪などの大型店が中心だった。
今村翔吾さんが改造したワゴン車に乗り込んで、全国行脚に出ました。なぜそこまでするのでしょうか。そして何を伝えたいのでしょう。出発前に朝日新聞のインタビューで語ってくれました。記事後半で紹介します。
昨年11月には、閉店の危機…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル